日本女子テニスプレーヤーで一番私たちに影響を与えた選手と思い、その偉業に対して敬意を表します。本当にありがとうございました。(橋本)
「テニスデイリー」の記事より掲載いたします。
「ジャパンウイメンズオープン」(WTAインターナショナル/東京・有明テニスの森公園テニスコート/本戦9月11~17日/賞金総額25万ドル/ハードコート)は9月12日、シングルス1回戦3試合が行われ、今大会で引退を表明している伊達公子(エステティックTBC)は、アレクサンドラ・クルニッチ(セルビア)に0-6 0-6で敗れ、現役生活にピリオドを打った。
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「100%には程遠かった」
伊達自身の言葉を聞くまでもなく、見守ったファンも、かつてと同じパフォーマンスを求めることが難しいことはすぐに察しただろう。
昨年の4月に左膝の軟骨移植の手術を受け、今年5月に復帰を果たしたが、そのあとに右肩を痛めて2度目の現役引退を決断。現役最後の舞台としたこの大会には、伊達自身が「このところの練習の中で、それほど質の高いものを出せるとは思えなかった。1ポイントでも多く、自分らしいプレーを出せるように」という状態で臨んだのだった。
それでも、「負けるのが嫌い、最後まで勝負にこだわってきた」という伊達の勝負根性は健在だった。
膝の不安を抱えながら、クルニッチのドロップショットに何度もネットへ食らいつき、サイドへの厳しい強打に苦しい声を上げながらも諦めることなく走り回った。
第2セットの第1ゲーム、クルニッチのサービスで30-40とブレークポイントを握ったが、手を緩めることのないクルニッチの強打と配球に、これをものにできず――。悔しそうな表情で天を仰いだ姿が印象的だが、また一方で「1ポイントの重み、1ゲームの重みをあらためて感じたし、これがプロテニスプレーヤーのタフさ」と試合後は清々しく敗戦を振り返った。
試合後の引退セレモニーで、その最後まで諦めない姿勢に涙したのは、伊達の5歳年下、”ファーストキャリア”の全盛期も知る浅越しのぶさんだ。
「なんとか1ゲーム取りたい」
0-6 0-5と敗色濃厚な場面でも、伊達はオンコートコーチングを要求。テレビ解説を務めた浅越さんは、その会話を漏れ聞き、「『1ゲーム取りたい』という声が聞こえてきて、まだ取りたいんだと……。最後まで諦めない姿勢がすごい」と、同じ園田学園高校出身の先輩へ花束を渡しながら笑い、そして泣いた。
現役復帰後の2年目からは、「若い人へ刺激を与えたいという思いから、自分自身のチャレンジに変わっていった」と伊達はきっぱりと言うが、ストイックにテニスに向き合う姿勢に20代の選手たちが何も感じないわけはないだろう。
同じく引退セレモニーに立ち会った奈良くるみ(安藤証券)は、「伊達さんが復帰してきてくれて、今の私たちがある」と語った。
「若い選手たちにとっては、『伊達さんがやっているんだから』と言われたら、言い訳ができないという意味では刺激になっていたかもしれない」と自身は笑うが、「ケガや苦しいときなどもあるけれど、緊張感や達成感を味わえるのは本当に限られた時間。いいことも悪いこともテニスからいろいろ学んで、人間的にも女性としても成長してほしい」という若手選手たちへ向けた言葉には、それを実感してきたアスリートにしか発せられない重みがあった。
その言葉は、きっと多くの女子選手にとって、厳しい挑戦の日々への糧になるはずだ。