【全米テニス】伝説の幕明けか⁉ 坂本怜のUSオープン予選デビューは、6本のMP凌ぐ奇跡の大復活劇!
「終わった……」
あの時そう思ったことを、彼は、隠しはしなかった。
当然と言えば、当然だ。
相手のテイラー・ジンクは、ワイルドカードで出場の地元選手。ファンの歓声を力に変える24歳は、第1セットを6-4で取り、第2セットでも2ブレークアップ。
ゲームカウント5-2のサービスゲームでも、ポンポンとサーブでポイントを重ね、40-0の3連続マッチポイントに至ったのだ。
19歳の坂本怜が口にした言葉は、試合を見る全ての人が共有した思いだったろう。
ただ「終わった」と思うことと、試合を投げ出すのは別の話だ。
「いろんな人……、お母さんにお兄ちゃん、彼女も見に来てくれている。『もうちょい、がんばろう』と思った」
目の前のボールを追い、坂本らしい“シコさ”にフォアの強打を織り交ぜると、硬さの見える相手にミスが出はじめた。
1本凌ぎ、2本凌ぎ……、3連続ポイントで坂本が追いつくと、客席が大いに沸く。
その声の多くは、ジンクの勝利を確信した上での、相手の健闘を称える同情的声援。
だが客席の最前線を陣取る若者グループは、この時、坂本の側に付くと決めたようだ。
坂本の勇猛なプレーが若いファンを引き付けていく
以降は坂本がポイントを取るたびに、「Go Rei!(行け、レイ)」「Right here!(ここだ)」と熱く叫ぶ。
3度のデュースを重ね、計4本のマッチポイントを凌いで絶対絶命の窮地を切り抜けた時、声援の輪は伝播していく。
さらにゲームカウント4-5の相手サーブでも、6度のデュース、2本のマッチポイントを凌ぎ、ついには5-5に追いついた。
とてつもない逆転劇が見られるかもという興奮の予感が、ますます見る者を熱狂させる。
続くゲームをラブゲームでキープした坂本が、最後のゲームでは8度のデュースを重ねてブレーク。
照明に火が灯り、試合の終わった他のコートからも、歓声に吸い寄せられるように次々と観客が詰めかける。
30分ほど前に「終わった」と思われた試合は、まさかの第3セットへと突入した。
それから、1時間後――。
3度目のマッチポイントで、長いラリーから攻めに転じた坂本が、浮き球を豪快に叩き込んだ。
最後はこの一番のロングラリーに。前に出る坂本の勇気が勝利を呼び込んだ。
大きく跳ねる打球の行方を見届けると、大歓声に包まれながら、ゆっくり崩れるようにコートに倒れる195㎝の長躯。
直後には跳ね起き相手と健闘を称え合うと、コーチたちの居るコートサイドへ、そして兄たちの居る逆サイドへと、それぞれトレードマークの“抜刀ポーズ”を披露した。
4-6,7-5,7-6(8)
3時間に迫る、奇跡のカムバック劇だった。
坂本にとってニューヨークは、始まりの地でもある。
3年前に、グランドスラムジュニアデビューを果たしたのが、この大会
昨年は、ジュニア部門のダブルスで優勝し、トロフィーを手土産にプロ転向を果たした。
年が改まった今年1月には、身内や友人たち用のSNSで、「全米オープン予選に出る」と宣言した。
当時のランキングは、300位台後半。そこからジリジリとランキングを上げると、7月のATPチャレンジャーで優勝し、一気に200位までジャンプアップ。
有言実行で滑り込んだ、今回の予選だった。
「ここの速いコートは好き。もうちょっと長くニューヨークに居られて、嬉しいです」
勝利の数分後には、凛とした表情で、淡々と口にする。
ジュニアとしてコートを去ってから、1年
“大人”になった坂本怜の、思い出の地へのカムバックでもあった。
坂本怜
2006年6月24日生まれ、愛知県名古屋市出身。15歳時に米国IMGアカデミーに渡り、腕を磨く。195㎝の長身から叩き込むサーブとフォアの強打に加え、本人も「シコい」と形容する粘り強さも武器。
写真は坂本玲氏のインスタグラムより抜粋 これが「抜刀ポーズ」です。
<橋本のコメント>
最近2-5からの挽回マッチを2試合を目の当たりにしました。「諦めない」と言葉で言うのは簡単だけど実行するのは…
この踏ん張りの様子は目に浮かびますね、